東出雲町 ほし柿
山懐の集落をオレンジに染める“ある”秋の味覚
じっくり熟すこと1ヶ月。素朴な日本伝統の銘菓に
のどかな田園風景に包まれた東出雲町・上意東の畑地区。
ココにこの小さな田舎町が全国に誇る“日本一”があります。
それが10月末から収穫、各農家の乾燥場に吊り下げられた後、師走の12月、地元の市場のほか、岡山、広島、大阪など県外にも出荷される「ほし柿」。
この地区は、古く江戸時代中期からほし柿の里として知られており、乾燥場に吊るされた飴色の柿すだれは、この地区に晩秋の訪れそして冬支度の準備を知らせる風物詩となっています。
口に広がる“ある”味覚が日本一!
どこか懐かしい味は、母の愛情たっぷりの証?
何が日本一?
実は、ほし柿に隠された糖度、甘さが日本一だと言われているのです。
橙色の実に真っ白な果糖が浮かび出た西条柿の「ほし柿」は、舌がとろけそうな程の甘味で、その味は上品な甘さの和菓子のよう。色・大きさ・味の三拍子が揃い、県外からも注文が殺到するほどに高い評価を得ています。
晩秋から本格的な冬にさしかかる11月から師走の12月にかけ、各生産農家の柿小屋には収穫された柿がずらっと垂れ下がり、じっくりと天日に干され、その甘みを熟成、濃縮。建物全体がオレンジに染まるその光景は、まさに“飴色のすだれ”の表現がピッタリ。
この畑地区に描き出される景観美は、「第5回美しい日本のむら景観コンテスト」(平成9年3月)で優秀賞を受賞しているほどで、徐々に日が経つにつれ、その色が深まる様は、田舎町に起こる奇跡を見ているような美しさを誇ります。
古くはお殿様、新しくは皇室にも献上!
すべて手作業で仕上げるやさしい“おふくろの味”
畑地区の柿小屋は独特の構造で、木造3階建ての総ガラス張り。
栽培されている柿には、樹齢400年を越す老木もあることから、ほし柿づくりは戦国時代にまで遡ると予想され、古くは尼子氏の城下にほし柿を行商に訪れたという記録が残るほか、江戸時代にはグルメなお殿様として知られる松平不昧公に茶菓子として、また近年では三笠宮家にも献上されるなど注目を集めています。
この味を支えているのが、地元農家の女性たち。
おふくろの愛情をしっかり詰め込みながら、果肉は甘みを増していきます。
そしてうまみを蓄え、あとは出荷の時を待つばかり。
柿小屋に吊されたほし柿たちは、その時期を今か今かと待ちわびているのです。
その甘さは県外でも評判に・・・
師走の12月、今年の味をいよいよお披露目!
出荷は11月末頃から徐々にはじまり、12月に本格化。10日頃から県内外の各市場に出回ることになります。
今年の出来栄えは?・・・
ぜひその際だつ甘みを体感してみてはいかがでしょうか?
また畑地区の柿、ほし柿を利用した名物も多数存在。
その代表的な商品が、ほし柿3つを柚子の皮で巻いた和菓子「ゆず巻」。ほし柿の濃厚な甘さと柚子の皮の酸味と苦みがほどよくマッチ。男性に特に喜ばれているそうです。
そして「柿ソフトクリーム」。この集落にほど近く「東出雲おちらと村」で販売されるご当地ソフト。一口頬張れば自然の甘みが口いっぱいに。柿独特のまったり感もほんのり残される逸品です。このソフト、実は「山陰道宍道湖サービス」では、「宍道湖夕日ソフト」として販売。オレンジの色みが、湖面に沈む夕日をイメージさせることからそう名付けられたそうです。
ほか、大根なますにほし柿を千切りにして入れた「柿なます」、ゆず巻の中心にうずら卵を入れ、衣を付けて揚げた「柿エッグ」など時期ともなれば柿づくしの商品で館内はいっぱいに。バラエティ豊かな商品で、甘〜い柿の旨みを楽しんでみるのもいいかもしれません。
買い物に疲れたら、囲炉裏を設けられた「おちらと茶屋」で一服。地元の名水で入れる天然水のコーヒーと合わせ、ちょっとティータイムにいかがでしょうか?
〜取材後記〜
今回の取材では、「畑ほし柿生産組合」組合長 三島さん宅にお邪魔させていただきました。
突然の訪問にもかかわらず、あったかく出迎えてくれるこのお人柄。田舎ならではののどかな空気感とも相まって、ホントに心癒される一時でもあります。
「一日に約800〜1000個の柿の皮を剥いていること」、「1本の紐に吊す柿は同じ大きさのものを10個だということ」、「柿の吊し方」、「干す期間」、「甘みの引き出し方」・・・
すべてが「へぇ〜」の連続。
そして何よりみなさんの干し柿のことを話すときのうれしそうな表情。
甘さと一緒にたっぷりの愛情が注がれていることを実感できる一コマでもありました。
じっくり熟すこと1ヶ月。その銘菓は日本一の甘さと評判