◆ REPORT
島根半島の最東端に位置する地蔵岬。その先端にあるのが美保関灯台。山陰最古の石造りの灯台で、「世界の歴史的灯台100選」にも選定されている。明治31年にフランス人技師の設計で建てられ、当時のままという白色で円筒形の造りは、どことなく西洋的ないでたちで洒落ている。
隣にある赤い屋根の建物は灯台守の宿舎だったもの。現在は「灯台ビュッフェ」になっており、味はさておき日本海を一望できるロケーションが人気だ。
美保関灯台をぐるりと一周すると、裏手の崖に静かに佇む鳥居を見つけることができる。本殿はなく鳥居の先は海。真下の海中には「地の御前」と呼ばれる島が鎮座し、美保神社の飛地境内とされている。鳥居は、この「地の御前」の結界である。
古来、本殿のない神社は、神を呼びおろす装置として知られてきた。「地の御前」も然り。本殿のある美保神社の境内とは比べようもなく簡素だが、こちらこそ聖地という雰囲気。とりわけ、朝方のパワーはすごい。鳥居の先に御来光を拝み、聖なるエネルギーが充満する。その荘厳な空気と清々しさに、俗世の垢も洗い流されるようだ。
この鳥居の中央から見える、4km先の小さな島にも鳥居がある。こちらは「沖の御前」と呼ばれ、「地の御前」と同じ由緒をもつ美保神社の飛地境内社。この島の海底には、神楽の音のような響きがあり、神異奇端の島と伝えられている。
『国譲りの神話』では、美保関で魚を釣っていた事代主神(えびす様)が海中に身を隠したと伝わる。「地の御前」「沖の御前」は、事代主神がタイを釣っていた場所と信じられ、現実に美保関灯台の沖合はタイの漁場となっている。海底に響く神楽の音は、事代主神が今でもタイ釣りを楽しむ唄声なのだろうか・・・・。
そもそも美保関灯台がある地蔵岬という地名も何やら気にかかる。昔から美保関は海難事故が多く、お地蔵さんが安全祈願のために奉納されていた。そのため中世以降から、お地蔵さまがある岬として「地蔵岬」と呼ばれるようになったらしい。神話と信仰と聖なるパワー。その具現化が、遥か水平線を望む美しい景色の中に立つ鳥居となったのだ。
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