“豊かな実りの秋となるように”と五穀豊穣の願いが込められた松江の銘酒「豊の秋」。やわらかく丸みのある味とスッキリとしたのど越しのお酒は、日本人はもちろん、ヨーロッパ人にも好まれる味だとか。それゆえ14年もの間日本航空国際線ファーストクラスの搭載酒に選ばれていたそうで、“空飛ぶ日本酒”の実績を持っています。
万人に愛されているこの銘酒をつくり続けているのが、明治29年(1896年)創業の「米田酒造」。店の軒先には、見事な一枚板の看板、杉の葉を束ねて丸くした杉玉が掛かり、古い良き時代の雰囲気をそのまま残している店舗が印象的です。
中へ入ると、桶蓋(おけぶた)や指樽(さしだる)といった酒造りの道具が商品棚や展示に利用されており、一気に日本酒ワールドへと引き込まれます。人気の試飲コーナーでは、「ふっくら旨く、心地よく」をモットーに造られたお酒をテイスティングできるので、香りや味を確かめながら“納得の一本”を探すことができます。
また、宍道湖七珍料理や野焼きかまぼこなど出雲の伝統食に欠かせない「出雲地伝酒」、本みりん「七寶(しっぽう)」も人気。特に地伝酒は、半世紀の時を超えて平成2年(1990年)に復活させたもので、料理の味に深みとコクが増し、より軟らかく、より美味しく出来上がる料理用調味酒なのです。コチラもぜひお試しあれ!
米田酒造の酒蔵は、店舗から少し離れた、京橋川北側の南田町にあります。使用する原料米はすべて酒造好適米。杜氏自らが「山田錦」を栽培し、酒造りの最初の一歩となる米作りから一貫して取り組んでいます。杉の暖気樽(だきだる)や麹蓋(こうじぶた)といった昔ながら木製の道具も大切にして、木のぬくもり、人の手のぬくもりが感じられる酒造りにこだわっているのです。また、酒蔵で使用する水は松江の山間に湧く清水で、1日2回通い、タンクローリーで運び込んでいるそうです。
一方で、精米機の導入など自動化も推進。大手メーカー等と共同して自動製麹装置を開発し、麹の品質を落とすことなく、より効率的な酒造りも実行中。そこには、現状に満足することなく、伝統的な手法を守り続けていくための進化や努力を惜しまない姿勢を垣間見ることができます。伝統と進化を合わせ持っている「豊の秋」だけに、これからも目が離せません。