人は皆、都会で流行する物や新しい出来事だけにとらわれがちですが、案外、身近な所や古いものの中に大切な何かを見つけるもの。ここ「出雲かんべの里」は、まさにそんな場所。出雲地方の歴史と深くかかわる民話や民俗文化、現在では見ることも難しくなってきた伝統工芸、失われつつある自然、それらと存分に触れ合える施設なのです。「民話館」「工芸館」の2施設と、周辺の里山を生かした「自然の森」から成り、それぞれで郷土の素晴らしさを再認識することができます。
民話館では、この出雲地方に伝わるいろいろな昔話をご紹介。語りべが生で昔話を聞かせてくれるのは、昔の民家を再現した「伝承の座」。囲炉裏を囲んで座り、方言を交えた民話を聞いていると、まるで田舎のおばあちゃんちにやって来たような懐かしい気持ちになります。「マジックビジョン」という立体映像のコーナーでは、明治時代の文豪である小泉八雲の『怪談』に登場するお話、「耳なし芳一」を上映。ジオラマの舞台で小人が劇をしているかのような映像を見ていると、いつの間にか芳一の世界へ引き込まれます。
そのほか、山陰の代表的な昔話35話を『まんが日本昔ばなし』風に画面で見ることができる「見聞の座」、昔話の解説や伝説の分布状況などをパネルで紹介している「検証の座」があり、いつかどこかで耳にしたことがある昔話に再び出会うことができるかもしれません。
隣接する工芸館の2階では、機織り、籐工芸、陶芸、木工芸、和紙てまりといった5つの製作体験が可能。どの体験に挑戦するかをチョイスしたら、レベルに合わせて作りたい物を決めます。それぞれの工房で指導をしてくれるのは、この地方にしかない伝統を守りつつ独自の世界を探求している工芸作家たち。数々の受賞歴を持ち、「島根県ふるさと伝統工芸品」の指定を受けている人もいる、その道の匠です。優しく丁寧に教えてくれるので、一見難しそうな作品もきっと完成できるはず。先生に負けない、オリジナルな作品づくりにぜひチャレンジしてみて。予約の有無や体験料金等は内容によって異なるので、ご確認ください。工房に並ぶ展示室では、作家たちの見事な作品を陳列・展示。1階にある販売品展示の物なら購入もできます。
体験後は、素朴なおふくろの味が自慢の田舎定食や出雲そば、コーヒーなどが味わえる「かんべ茶屋」(土日祝のみ営業)へどうぞ。民話や体験について談笑しながら、ゆっくり寛いでください。
民話館、工芸館の2施設から外へ出ると、約18haの里山が広がっています。「自然の森」と名付けられた美しい森には、コナラやアカマツ、ツツジ、ヤマザクラなどが群生。遊歩道を進んでいくと、幾つかの水場に出会います。雨乞池周辺には「オオエトンホ」という珍しい昆虫が生息。また、蝮谷池から谷奥のあやめ池までの細い谷間周辺は、谷からの滲出水(しんしゅつすい)で過湿状態にあるため、ミズオトギリ、カキツバタ、チゴザサなど湿地性の水生植物が多く見られ、歩きながら楽しく自然観察することができます(一部整備中の箇所あり)。森の入口にはターザンロープがあり、自然の中で元気に遊ぶことも。東屋のある展望台は、松江市街や安来、中海、遠く大山まで望むことができるので、雄大なパノラマを眺めながらうーんと伸びをして、森のマイナスイオンたっぷりな空気を深呼吸してみましょう。
「出雲かんべの里」では、レンタサイクルも行っています。この周辺は歴史文化に恵まれた土地で、遺跡や史跡、社寺などの観光スポットが数多く点在。縁結びで有名な「八重垣神社」、日本最古の大社造りの社殿を持つ「神魂(かもす)神社」、この2社を結び、古墳群や馬や鹿のはにわが並ぶ「はにわロード」等々見どころがいっぱいなので、サイクリングマップ片手に風を切って巡ってみては。八重垣神社の隣にある「喫茶八重」に自転車を乗り捨ててもOK。車で行くのでは分からない、新たな発見があるかもしれませんよ。
(民話館)