とりわけ大きな花で存在感をアピールし、フリルのように幾重にも重なった花びらは妖艶そのもの。「富貴花」という別名にも納得がいく「ボタン」は、古来から好んで和歌や俳句に詠われたり、絵画や着物のモチーフとして描かれてきた花です。高貴で豊かな姿と清らかな香りから、多くの園芸愛好家たちに愛されています。ボタンは中国が原産地ですが、日本国内で最も有名な産地は、山陰を代表する汽水湖・中海に浮かぶ「大根島」。年間約180万本を生産する“ボタンの里”として知られ、その規模は全国一を誇ります。ゆえにボタンの花は島根県のシンボル的な存在で、昭和29年(1954年)には「島根県の花」に制定されているのです。
大根島でのボタン生産のはじまりは、約300年前までさかのぼります。八束町にある全隆寺住職が遠州(静岡県)の秋葉山に修業に訪れた際、薬用として持ち帰り、境内に植えたのが最初だとか。その後、徐々に島内の農家に普及していき、明治以降は上方からの移入や島内での品種改良がなされ、ほんの数種類だった品種も現在では約300種に及ぶそうです。一重咲きや八重咲き、色も白や黄色、淡紅、深紅、紫、さらには黒色に近いものまであります。こうした品種改良や販売努力の結果、昭和20年以降、「大根島のボタン」は一気に知名度を上げました。全国各地から多くの人が訪れるようになった上、今では欧米に向けて年間約60万本を輸出するまでになったのです。
花の見頃は、4月の終わりから5月上旬。開花シーズンになると、島内のボタン園は花と人とで大変にぎわいます。バラエティーに富んだ大輪の競演に、観光客の目は釘付け。本場・中国から導入した貴重な品種が咲く園や、ボタンと一緒に四季折々の木々や花の風景を楽しめる日本庭園を持つ所もあり、各園それぞれに特徴があります。鑑賞はもちろんのこと、気に入った苗木や鉢植えを購入することもできるので、自宅で栽培して花を楽しんだり、誰かにプレゼントするのもいいアイデアです。
また、春だけでなく冬にも花をつける二季咲きの「寒ボタン」も人気。冬場の開花時期は10月下旬から1月下旬で、雪の中、寒風に耐えながら咲くボタンの花はなんとも健気で可憐。春とは全然違う表情を持つ冬仕様のボタンもぜひ見にきてください。
※島内の各ボタン園は、開園時期や入園料等がそれぞれ違いますので、ご確認の上ご来訪ください。
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